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「緑風石の件で参りました。ご存じの通り、彼の地は人手不足。そこで、シェナから働き手を募ろうと思うのですが、その者たちの当面の宿泊場所など用意する手立てに迷っています」
トールは手元の資料に目を落とした。
「現在、あちらには宿は数えるほどしかなく、大きな建物もない状態です。辛うじて空き家がありますが、足りなく、また、荒れています。そこで、新たに、宿を建てようかと思うのですが、お許しくださるでしょうか?」
「彩石はいずれ尽きる。それを見越しても、今、宿を建てたいと?」
トールは頷いた。
「はい。たとえひと時でも、生活する場所がなければ、働きようがありません。いずれ尽きる資源だと判っていて、移り住めとは言えない。これは必要な措置だと考えます」
フォーレンは自分の顎を撫でて、少し考えるようだった。
トールは黙って執務机の向こうに座る父を見ながら、もし許されなかった場合の返答を考えた。
すると案の定、フォーレンは言った。
「許さなければなんとする?」
「今ある空き家を修復するよりありません。これは、さらに手がかかります」
「うん…、どう思う?」
フォーレンは傍らにいた大臣のひとり…財務大臣のウテカ・マクォネルを見て言った。
ウテカは内心緊張して口を開く。
フォーレンはウテカの意見を聞いているのではない。
ウテカの応え方を観察しているのだ。
「は、適切な措置と存じます。また、利益がその支出を上回るものと考えております。さっそく試算させていただきたく存じます」
フォーレンはトールを見た。
「だそうだ。進めよ。ほかには?」
「輸送に時間がかかっています。人手を増やすより、よい方法がないか探したいのですが、現地に行ってはいけませんか?」
「必ずしも方法が思い浮かぶというわけではあるまい。しかしそうだな、お前には宮殿の外を見るいい機会だ。コリンを連れて行ってくるがいい」
「コリンも…ですか?サールーンの第二王女殿下をもてなそうと張り切っています。今から役目を外しては少しかわいそうな気がします」
「王女と日程を合わせればいい。こちらに来るまでまだ数日かかるのだろう」
「ええ、ニルフィ港には来週の暁(ぎょう)の日に到着予定です」
「ではちょうどいい。今から出発して王女を出迎えよ」
トールは目を瞬いた。
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