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ルゼナが前に出て、軽く女を押さえる。
トールは女の迫力に気圧され、女を見ていた。
「これがあなたが知りたがったことの一端です。このような者たちがこの界隈には数多くいる」
ルゼナが言った。
トールは女を見て、少年少女を見た。
ふたりとも、まっすぐトールを見つめている。
「…腹が減っているのか」
ふと、トールが聞いた。
少年は1拍置いて、頷いた。
トールはどうすればよいのか、正直判らなかった。
ただ事実だけがそこにあった。
女は、この少年少女のために、トールから財布を盗もうとしたのだ。
財布をやれば、解決するのだとは、トールには思えなかった。
「トール、どうしたんだ?」
そのとき、背後から声がして、すぐに声の主がトールの横に立った。
コリンだ。
「どういう状況だ?」
「その者が腹を空かせているんだ」
トールがそう答えると、コリンが言った。
「へえ?じゃあ何か食べるか?」
そう言って、振り返る。
「さっきの店から何か買ってきてくれ!」
そう言うと、コリンとともに来ていた護衛の者が2人、建物を出ていった。
「お前、名はなんというんだ?」
コリンに聞かれて、少年は、ザイ、と答えた。
「お前は?ザイの妹か?」
少女はザイを見上げ、身を屈めるコリンを見た。
「名は?」
もう一度聞くと、少女は、カヌラ、と答えた。
コリンは頷いて、ルゼナが押さえている女を見た。
「お前は、名は?」
女は迷うようだった。
だがコリンがじっと見ていると、やがて言った。
「ヤナ」
「ルゼナ、放せ」
その言葉を受けて、ルゼナはヤナを放した。
「ヤナ、お前たち、親はどうした?」
「あたしには親はいない。その子たちの母親は焼いた」
この大陸では、遺体は焼くのが一般的だ。
その後、海や、風の強い所に行って灰を撒く。
「そうか。ザイ、俺の下で働かないか」
ザイは目を瞬いて、コリンを見ると、カヌラを見、ヤナを見た。
「カヌラとヤナを連れてラクトに来い。ヤナにも仕事を世話してやる。俺の下で働くのは嫌か?」
「どういうつもりだい」
警戒心も露わなヤナを見て、コリンは言った。
「ん?ザイが気に入った。それだけでは不満か?」
ヤナは言葉の意味を考えるようだった。
「ザイに、何をさせる気だい」
「ん、まず剣を教える。俺も専属の護衛が欲しいんだ」
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