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ザイの護衛は、もちろん専属だったが、ルゼナのように、自分の考えを述べたり、護衛をまとめる能力のある者ではなく、個々の意見を述べることはなく、集団で動く者たちだった。
ヤナはどう考えたものか判らなかった。
今、会ったばかりで、名も知らない。
「あんた、何者だい」
「カザフィスの王の第三子、コリン・エリク・ルーゼンテル・セステナ・カザフだ」
ヤナはその言葉を呑み込むのにしばらく時を要した。
「…王子様が、なんだって、こんなところに…」
言いかけて、トールを見た。
「あ、あんた…」
「ん?トールがどうかしたか?王子だと知らなかったのか?」
ヤナは青くなった。
掴まってもせいぜい鞭打ち、と思っていた。
もちろん捕まる気はなかったのだが、万が一捕まっても命を落とすことはないと思っていた。
だが…相手は王子だった。
極刑を受けるかもしれない。
「どうした。ヤナ、何をした?」
「財布を盗もうとしたんです」
「なに、危ないことをするな。相手がトールでなかったら痛めつけられているぞ」
コリンも市中に出ることがあり、通りすがりに財布を狙う者たちの存在は知っていた。
そのうちのひとりが打ち据えられようとしたのを止めたことがあるので、強く記憶に残っている。
「そのような危ない仕事は二度とするな。王宮で働けば、必要もなくなるだろう、俺とともに来い」
そのとき食べ物を持った護衛たちが戻り、そこにあった角のある机の上にそれらを並べた。
「取り敢えず食べろ。話はそれからだ。さあ、ヤナ、ザイ、カヌラ、座れ。
そう言って、自分は端にあった丸椅子の具合を確かめて机に持ってくると、座った。
「さあ、何をしている、食べろ。俺も少し食べさせてくれ、腹が減った」
そう言って、適当なものに手を伸ばす。
ザイはしばらく迷ったが、カヌラを机の方へと促し、椅子に座らせると、自分も座った。
手近な食べ物を手に取り、口に運ぶ。
それをあっという間に平らげると、カヌラを見て、食べるように促した。
カヌラも食べ物を口に運び、ゆっくりと食べる。
「さあ、ヤナも食べろ。残しては作った者に悪い」
ヤナは促されて、恐る恐る椅子に座り、食べ物を手に取った。
食べ進めるザイとカヌラを見て、自分も食べる。
ゆっくりと。
しばらくそうして、無言の食事を終えると、コリンが言った。
「さあ、荷物を持って付いてこい」
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