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そう言われて、3人は互いを見た。
ヤナが言った。
「荷物はないよ」
「なんだそうか。では行こう。途中で服屋に寄ろう。その格好では寒いだろう」
そう言って、コリンはトールを促して、部屋を出る。
数歩歩いて、振り返ると、3人はまだ部屋の中だ。
「さあ、来い。それとも俺の護衛では不満か、ザイ」
ザイは水色の瞳を瞬かせてコリンを見た。
そしてすぐに、決断した。
「カヌラ、いこう」
カヌラの背を押す。
それからヤナを見た。
「ヤナ、いこう、おれたち、ぬけだそう」
これは機会だった。
食べるものも手に入れられないこの生活から抜け出すことのできる、もうこの先訪れることはない、機会。
ヤナは迷った。
これは好機かもしれない。
けれど、見知らぬ世界に飛び込む勇気が出なかった。
「あ、あんたたちだけで行きな…」
「いっしょにいてくれるって、いったじゃないか」
動かなくなった母の枕元で、そう言った。
「ヤナもいっしょでなきゃだめだ」
強いザイの瞳に、ヤナは抗えなかった。
「わかった、行くよ…」
カヌラがヤナの手を強く握った。
ザイが促して、3人は歩き出す。
コリンは頷いて、こちらも立ち止まっていたトールを促して建物を出た。
「さてと、服屋はどこだ?店仕舞いの前に買わないと」
コリンの護衛が先に立って歩き出す。
賑やかな通りに戻ると、先に行っていた護衛…セイ・ルーフトが戻ってきて、あちらです、と示す。
トールとコリンたちは、人の間を縫って歩き、一軒の服屋の前に立った。
「さてと、ザイはいいとして、ヤナとカヌラの服はどう決めようか」
「自分が見立てます」
コリンの護衛のひとり、ナハル・ミュラがそう言って手を挙げた。
ヤナとカヌラを促して、店の奥に入る。
残りの護衛、チリ・スフィリト、グレイ・シック、フレス・レインジは店の外で待ち、トールとコリンとルゼナとセイは、ザイの服を何着か見繕った。
そうして服を調えると、宿に戻り、部屋をひと部屋増やし、ヤナとザイとカヌラに、共同浴場で湯を浴びるよう言った。
「明日は7時ごろに食事だ。起こしに来る」
そう言うルゼナにザイがしっかりと頷くのを確認して、トールとコリンたちは食堂に向かった。
席に座り、注文した食事が机の上に並ぶと、口数少なかったトールがコリンを見て言った。
「なぜあんな申し出をした?」
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