荒野の国

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荒野の国

       ―Ⅰ―    トール・マイエ・フォンスシエッサ・ルーテイン・カザフはカザフィス王国の第二王子だ。 彼は今、とにかく多忙で、眉間の縦じわが固定化しつつあった。 「トール!」 書類を読みながら早足で歩いていると、不意に聞き慣れた声に呼ばれて立ち止まった。 声の主は、話していたらしい宮殿の武官と別れて駆け寄ってくると、おはよう、と笑顔で挨拶をする。 促して歩きながら、弟のコリン…カザフィス王国第三王子コリン・エリク・ルーゼンテル・セステナ・カザフが口を開いた。 「ジエナから伝達来たか?サールーン王国の第二王女を連れてくるって!どんなひとだろう!?」 きらきらした瞳でそう話す弟が、トールはいとしかったが、その話の内容には渋面を作るよりなかった。 「ああ…、もてなしている余裕はないんだがな」 ここ数ヵ月、国内に彩石(さいしゃく)が多数見付かり、それへの対処に追われているのだ。 彩石とは、この大陸に住む人すべてが持つ、土、風、水、火を操る力…異能の行使を助ける石だ。 この石には3種類あり、ひとつはサイジャクといって、人の異能を減少させる働きを持ち、ひとつはサイゴクといって、人の異能を増大させる働きを持つ。 そして、もうひとつは、力そのものを内包するサイセキで、見付かったのはこのサイセキだ。 サイセキのなかでも、多く出現するものには名があり、今、問題となっているのは、このうち、純粋な風の力を内包する緑風石、純粋な水の力を内包する青水石、純粋な火の力を内包する赤火石だ。 何が問題かというと、まず数が多い。 それらはこの国の財産となるものだが、管理には人手がいる。 次に、出現している位置が悪い。 国境に近い位置なのだ。 そこはこれまで人の立ち入れなかった危険区域だったのだが、最近ここに強力な結界が復元され、自分たちも立ち入れるが、他国も立ち入ることができるようになってしまった。 国の財産が増えたことは喜ばしいが、面倒が増えたことは事実で、トールはなんとか文句を腹のなかに納めている状態だった。 カザフィス王国国王である父、フォーレン・カイト・レイクエスト・カザリ・カザフも、第一王子である兄、ジエナ・ルスカ・フォレステイト・ナサニエリ・カザフも意識して話さないが、彩石発見はある女性のもたらした情報のようなのだ。
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