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オルニスの塔
歌えなくなった鳥は、次に足を差し出した。
大空を知らない鳥は大空を歌えない、当たり前の話。誰かが歌う鳥籠の外の歌を聞いて、想像に夢を見るだけ。
真っ赤な小鳥が鳴きながら、明けたばかりの空へ舞い上がるのを睨みつける。
「憎らしい鳥ね」
湿原の真ん中に二つの塔、ここは禁欲の塔、つまり女たちの自室がある、男子禁制の塔。それから色とりどりの花が咲き、露店で賑わう広大な庭園を挟んだ向こう側に見える大きな塔は、オルニスの塔、つまり酒場、私たちの職場。
湿原の真ん中に不自然にそびえる、蔦の絡みついた二つの塔、ここは一つの国みたい。露店に行けば何でも揃う、欲しい物は客の男が買ってくれる、魔女の営む薬屋、引退した勇者がやっている肉屋、元盗賊の遊び人が始めた骨董屋、踊り子の服屋、広い庭園のあちこちに露店が出ていない日はない。何かと理由をつけてはお祭り騒ぎで、外に出る必要のない女たちは籠の鳥。
だから、自由に舞い歌う鳥なんて見るのも嫌。
「私は今から寝るんだから静かにしなさいよ」
夕方になれば、また酒に溺れて甘い声で男におねだりする。それが今の私の仕事。太陽は沈む時と昇るとき以外ほとんど見ない。もうずっと、この鳥籠で暮らしている。三歳くらいの私を、呪術師の男が大ママに預けたきり戻らないらしい、だから私は外から来た。もちろん覚えていないし、鳥籠の外へ出た事もない。獰猛な獣に、人食い怪鳥、唄う水の声は麻薬なんだとか、男たちが夜毎いろいろな話を持って来るものだから、女は怖くて外へ出られない。
女たちの鳥籠、オルニスの塔。ここに居るのは訳あり女たち。
「今まで外に出た女たちは誰一人として戻らないよ」
大ママが溜め息を吐くから、外への恐怖が増す。
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