オルニスの塔

3/33
前へ
/33ページ
次へ
 客は先ず受付で基本料金を支払って中に入ると、飲食代は別にして今夜一晩、塔の全てを自由に使える。一晩で馬鹿みたいな金が必要だが、それでも魔獣を討伐した金を、あちこちで手に入れた宝を売り歩いた金を、暗殺や戦の報酬を持ってここに来る。 「いらっしゃいませ、宿はご利用なさいますか?」 「いや、いい」 「では酒場は全て翌朝の五時までとなっております。飲食代は別ですので、それぞれの店舗にてお支払いください。大浴場はご自由にご利用いただけます。それでは、よい夜を」 「おはようございます」 「こんなギリギリじゃなくて、もっと早く来なさいよ」  煙草の煙を吐くついでに、ママが鬱陶しそうに言う。 「すみません」  私の立ち位置はちょっと面倒くさい。私はここで育ったオルニスの塔の娘。子供の頃からずっと、去年までは男に媚びを売ることもない、ただの歌姫だった。けれど歌えなくなってしまって、二階の脚フェチバーで働き出して三か月。この塔の全てを仕切る大ママの娘のような私を後輩に持つのは、かなり面倒くさいだろう。     
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加