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けど今では魔女にもらった薬を飲まないと一日中、寝ていても起きるくらい息苦しくて、首に手をやるのが癖になった。
「ウツギ、あなたの足を舐め舐めしたいお客さんが来たよ」
そう言って下品に笑うのは網タイツのお局様。
この鳥籠で名をもらった、私はウツギ、空っぽの二十六歳。
言われるままに脚を差し出して、言われるままに踏みつけて酒に溺れる、自由な歌を失くした空っぽの元歌姫。
汗臭くて、欲望むき出しの男たち。
「おかえりなさぁい、心配してたよ。魔獣の討伐お疲れさま、怪我はない? 今回の武勇伝を聞かせてよ」
甘えた声を出せば得意気に私の肩を抱く、この人は槍使い。いつも私を指名して、煙草くさい息を吐きながら足の指先を、ささくれから指の間まで丁寧に舐め回すのが好きな人。
「そう焦らんでも大丈夫だ、お前のためにガッポリ稼いできたぞ。何が食べたい? いや、先ずは酒だな」
「砂漠鮫のヒレ酒が飲みたいな、さっき入ったばかりなの」
「分かった、分かった、本当に仕方のない奴だな」
オルニスの女の言葉は嘘ばかり。
「私は籠の鳥だもの、外の話を聞かせてよ」
そうして隣に座る槍使いの太股に、そっと片足を乗せると、酔いにまかせる夜の始まり。
「俺が喉を一突きでお終いだ。大変なのはその後だよ、二体だって聞いていたのに十体も出てきやがって、話が違うんだよ」
けれど討伐は成功して、自分だから大した怪我もなく帰って来られたのだと自慢話。これを聞くのも仕事のうちだ。
それから私はヒレ酒があまり好きではない。ヒレ酒が高い酒だから、臭くても飲むだけ。喉が渇いた、腹が減ったと甘えるのは、私には歌うことより難しい。ただ慣れてはきた、強めの酒を浴びていれば、足に感じる、虫が這うような不快感さえ耐えられる。蟻よりはミミズに近い感覚。苦しい歌よりはマシだ。
世界がボワンと耳の中に納まって、視界があまり気にならなくなると、もう大丈夫、後は早い。
呼ばれるままに、望まれるままに応えていく。
そんな中でも外の世界の話は、私を惹きつけて癒してくれる。
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