14:嘘つき男と大切なひと

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 いつも通り布団の横に正座をして首にかけた紐をたぐり、その先についた指輪を両手で握り額につけて目を閉じる。  今日もいつも通りの一日だった。起きたら朝食の支度をしながら自分と礼くんのお弁当をつくり、みんなとご飯食べて礼くんと学校に行く。  二月は自由登校だから学校に通うのはあと一ヶ月ちょっとしか無いけれど、遠巻きに僕を見ていたクラスメイトたちとも少しずつ話をするようになって打ち解けられてきている気がする。  両親が生きているときはふたりとも辛そうだし自分も辛いことばかりで、きっとひとりで生き続けていても自分も同じ道を辿るとしか思えなかった。  だから苦しむ時間は短い方がいいと思った。それなのに死のうとして助かって、そのあとにこんなに穏やかな日々が待っているとは思わなかった。  最近では近所のスーパーへの買い物くらいならひとりで行けるようになって、まるで普通の人のように生活できている。  それがすごくうれしくて幸せだなぁと思っているはずなのになぜか体調はよくなったり悪くなったりを繰り返しながら日に日に酷くなっていっているように感じる。  いつからだったかはっきりとは覚えていないけれど、思えば朝に布団から体を起こした際にぐらりと体が横に傾くような感覚を覚えたのが始まりだったように思う。     
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