14:嘘つき男と大切なひと

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 それからめまいを感じる回数が増えていって、今では日によっては常に荒波の上を漂う船の上にいるような感覚の時もあって床がぐらんぐらんと左右に揺れるからそれを周囲に気付かれないよう廊下をまっすぐ歩くことさえ苦痛に感じるし、船酔いをしたかのように吐き気を感じるときもある。  今では横になったりじっと座って頭を動かさなければ症状がおさまることが分かったのだけれど数日で治るだろうと思っていたものがここまで長引くと辛くなってくる。  礼くんには話しておこうかと思ったりもするのだけれど、どこかが痛い訳でも熱がある訳でも無い。今は日常生活にも何の問題も無い。それなのに体調が悪いなんてわがままな気がして、どうしても口にすることが出来なかった。  もしかしたら、季節の変わり目だとかそういう下らない理由で体調が悪くなってるだけかもしれない。  大丈夫。きっと大したことじゃない。  自分にそう言い聞かせて目を開け、頭をあまり動かさないように立ち上がって電気を消し布団の上に足を伸ばして座り、急激に頭を後ろに倒さないよう肘をついて少しずつ体を倒して仰向けになる。  これだけ気をつけても横になってもしばらくは部屋全体が渦にでも飲み込まれたように右に回ったり、左に回ったりを繰り返す。  どうしてこんなことになってしまったんだろう。  僕はみんなから貰ったお金で生活出来ているんだからもっとしっかりしないといけないのに。     
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