14:嘘つき男と大切なひと

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 でも扉に入ったらすぐ椅子に座るように言われて、でも揺れる床の上で部屋のほぼ中心にある椅子に向かおうとしたら自然とかなり遠い距離から手を伸ばしてその背もたれを掴んでそれを支えにするように椅子に近づいてしまった。 「確かに、めまいを感じているようですね」  椅子に座るとすぐにそう告げられて僕が驚いた顔をすると先生は予約の際にご自分で記入した内容ですよ。と言った。その言葉で礼くんは予約間違いをした訳では無かったのだと理解して僕は素直に先生の質問に答え続けた。  そうして診察が終わり薬を受け取って通り過ぎる人たちにたまに変な目で見られながら壁に手をついて家を目指している今に至る。  隠していたつもりなのに全部バレていたんだと思うとありがたいとも思うのだけれど自分が情けなくもなる。もっとしっかりしなくちゃならないのに、どうしてこんなに周りに面倒をかけてばかりなんだろう、と。  ここは陸の上だ。  揺れてない。  揺れてなんていないんだ。  そう念じ続けても足を前に進めて体がわずかに傾くだけでその揺れを何倍にも感じるせいでやっとのことで家にたどり着いた時には我慢せずに胃の中のものをすべて吐いてしまったほうが楽になるんじゃないかと思うくらい体調が悪くなっていた。  倒れ込むように玄関の戸の横に手をつき壁に体重を預けたまま鞄からキーホルダーのついた鍵を取り出してそれを穴に差し込んで回し、それを再び鞄に仕舞う。     
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