14:嘘つき男と大切なひと

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 いつもだったら何てことは無いはずの作業をこんなに苦痛に思う日がくるなんて。  でも、だからと言って一日寝ている訳にもいかない。  少し休んだら夕飯の支度をしないと。  自分が通れるだけの隙間を開けて戸をくぐって棚に寄りかかって後ろ手でその戸を閉める。  頭を前に倒すとそのままぐらっと床に倒れそうになってしまうから靴を脱ぐときも前かがみにはなれない。  棚に手をついてまま何歩か進んだところで壁に体の側面をべったりとつけて片足を上げ、靴の踵を手で掴んで靴を脱ぐ。  これだけ気をつけているのにその最中もぐらりと体が傾く感覚を覚えて靴を脱いだ方の足を玄関のタイルにつけてしまう。靴下汚れただろうなぁ。  心の中でため息をついてそちらの足は諦めて壁に背中をつけてもう片方の靴を脱いで廊下に上がる。  このままじゃ廊下を汚しちゃうし次は靴下を脱がないと。  居間の襖によりかかって足を上げようとした瞬間、体重を預けていた襖が開けられてそれと一緒に僕の体も前に傾く。  普段だったらそれで転ぶことは無かったかもしれない。  でも今の僕は荒波に揺られる小舟の上に立っているような状態なのだ。  床に吸い込まれるように頭がぐらりと斜めに傾いて、襖に体をこすりながら床に体を打ちつけた。     
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