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僕が倒れると同時にチャックが開いたままだった鞄から中身が飛び出したらしく頭の横からバサ、とかカラカラ、とかゴン、といういろいろな音が聞こえてくる。
うっすら目を開けると目の前に飛び散った錠剤のシートが目に入った。拾わなくちゃと反射的にそう思うのだけれど体の痛みよりも吐き気が酷くて体を起こすことが出来なかった。
「さい、か?」
頭上から聞こえてきたのは男の人の声。こんの声だった。
そこでようやく誰かが開けたから襖が動いたんだというごく当たり前のことに気付く。
「大丈夫」
心配かけないよう床に手をついて体を起こすと彼は目の前に膝をついて僕の肩を掴んだ。
「彩果、どこか悪いのか?」
「え」
「え、じゃない。この床に飛び散ってる薬は何だ。風邪薬じゃないだろう?」
「何で、」
座っている床も見えている景色もぐわんぐわんと左右に揺れて、あまりの気持ち悪さに近くでしゃべっているはずの彼の声が遠く感じた。
「何でそんなに怒るの?久しぶりに会ったんだからもっと優しくしてくれると思ったのに、ひとりでよくがんばったねって誉めてくれると、」
揺れる視界の中、吐き気をこらえて話していると彼が驚いたような顔をして、その表情を見て自分が何を言ったのかを理解する。
優しくしてくれると思った。
誉めてくれると思った。
何だそれは。
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