14:嘘つき男と大切なひと

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 僕が彼に会って言いたかったことはそんな子どもみたいなことじゃなかったはずで。 「ご、ごめんなさい。僕は、そうじゃなくて、やっぱりお父さんとお母さんの子どもじゃなくて、本当のお母さんはとっくに死んでて僕には最初からずっと家族なんていなくて」  自分が何を言っているのか分からなかった。  手が震えて、吐き気は増す一方で、  そこで言葉を区切った瞬間口の中に酸味を感じて慌てて口を押さえて立ち上がり、廊下の先のトイレを目指す。  でもめまいのせいでまっすぐ走ることが出来なくて、右の襖にぶつかって襖を押して走り出したら次は左の襖にぶつかってそのまま床に崩れる。  早く立ち上がらないと。口を押さえたまま腰に力を入れて立ち上がろうとするが体が傾いて再び床に転がってしまう。  何で、  トイレは目の前なのにこらえきれそうにない。  涙がにじみそうになった瞬間彼が僕の体を起こしてぎゅうと抱きしめた。
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