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15:嘘つき男のほんとうのこと
「ごめんなさい」
洗濯と掃除を終えて部屋に戻ってきた彼に布団に横になったまま謝罪の言葉を口にした。
「体調は?」
彼がそう問いかけながら僕の枕元に座る。
「吐いたらすっきりしたのでもう大丈夫です」
「そうか」
僕の体調は本当によくなっているのに彼の顔は不安な表情のままで、それを見つめていると胸が苦しくなった。
「僕、あなたに好かれているんだと思って調子に乗ったのかもしれません。優しくして貰いたいとか、誉められたいなんてそんなわがままなこと言うつもりじゃなかったのに、ごめんなさい」
「謝られたってうれしくない」
「その、でも僕、酷いことしてばっかりだから」
「俺は彩果に酷いことをされた記憶なんて無いし、俺が本当に謝って欲しいことは今彩果が謝ろうとしたことじゃない」
その言葉の意味が分からなくて黙ったまま彼の顔をじっと見つめていると彼はため息をついて前髪をどかし僕の額に手を置いた。彼の肌の感触。手のひらから伝わる体温が心地よくて、ただそれだけで体から力が抜けるのを感じた。
「あんな手紙残して自殺しようとしていたなんて知ったら俺がどんな気持ちになるのかちょっとでも考えたか?」
「だって」
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