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鏡の前に戻り再びそれに映った自分の顔を見る。先ほどまでより顔色が悪いせいで紅がよけいに色鮮やかに見えた。酷い顔だ。誰がこの顔を見て式を直前に控えた花嫁の顔だと思うだろう。こんなに色鮮やかに飾っているのにこれじゃあまるで葬式にでも行くみたいだ。
子どもの頃から分かっていたじゃないか。子をつくるための道具に過ぎないものに生まれた時点で幸せな家族なんかつくれないって。
僕はお金を貰うために抱かれて子をつくる。ただそれだけをすればいい。生まれた子もあの三人の中の誰かの子ということになるだろうから子育てだってする必要が無いだろうし。
そう自分を抑えようとしてもじわりとにじみ出るように怖いという気持ちが表に出てくる。
大丈夫。大丈夫。
そう頭の中で繰り返しても脳裏には今まで自分を襲ってきた男たちの顔が次々と浮かぶ。
暗い小屋の中、
路地の裏、
森の中、
埃っぽい教室、
校舎裏、
男の顔が変わればその場所も次々と変わっていく。
荒い息遣い、
人以下のくせにと罵倒する声。
それに重なるように痛くしないからと気色悪い猫撫で声も聞こえる。
それにまた違う人の声も重なって、
重なって、
重なって。
大丈夫。大丈夫だ。ただその男の中にあの男が加わるだけ。忘れたくても忘れられない光景にあの男にこれから与えられるだろう部屋の天井が加わるだけ。
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