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「なら良かったんだが、俺はここがどこかも分からない」
「記憶が無いということですか?」
「自分の名前さえ分からないということはそうなんだろうな」
「それでどうして自信満々なのか分かりませんが」
ふぅと息を吐いて目の前の男を観察する。頭から血が流れていたりすればそれが原因かもしれないけれど。
「見たところ外傷は見当たりませんし衣服にも汚れは無いようなのですが、痛むところはありますか?」
「いや、無い」
「そうですか。じゃあ、些細なことでもいいので何か覚えている事はありますか?」
「無いな」
「だからどうして自信満々、というかもう少し思いだそうとしてみてくださいよ」
「そんなことを言われても」
「じゃあ、質問してもいいですか?」
「あぁ、構わん」
「ここまでは自分で来たんですか?」
「そうだ。目が覚めたら知らない場所にいたんだが、よく考えたらその場所の事だけではなくて何も覚えていなかった。困ったなぁと思ったんだが、まぁ飯を食いに行くことにした」
「待ってください」
「何だ」
「記憶喪失なんてとんでもない緊急事態なのに、どうして食事に出掛けるんです」
「腹がふくれれば思い出すかもしれないだろう」
「腹がふくれても思い出せなかったんですよね」
「いや、まだ飯を食っていない」
「何で」
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