1:オメガの花嫁と記憶喪失男

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 1:オメガの花嫁と記憶喪失男

 最初に目に付くのはまるで花束を頭に乗せているかのような色鮮やかな花飾り。  そこからは細いチェーンが何本も垂れていてその途中途中に付けられた宝石がキラキラと窓から差し込む光を反射している。  はぁ、とため息をつくと鏡の中のその人の紅を塗られた唇も開く。  何もおかしなことは無い。鏡に映っている七夕の笹かクリスマスツリーのように飾り付けられたそれが自分の姿なんだから。  着物ってこんなに窮屈なものだったのか。鏡から視線を逸らし自分の胸の下から腹部をぎゅうと圧迫する帯を見つめる。それに施された刺繍は細かく、きらびやかで。もちろん着物自体もその帯に負けないほど色鮮やかな模様が施されている。  僕を貰う男は、貧相な僕を無理矢理にでも豪奢に見せたいらしい。式に出席する人々に対しての見栄もあるだろうけれど、彼自身こうでもしないと愛してもいないガキとの結婚式などやっていられないのだろう。  はぁ、と口からは何度目か分からないため息が漏れる。気が重いのもあるし単純に胸が圧迫されているせいで息が苦しいせいもある。  「手伝いが必用かい?」     
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