芯まで愛して

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芯まで愛して

 二人で並んで歯磨きをするのは、涼一(りょういち)にとって夢だった。一緒にキッチンに立つのも、榛名(はるな)の手が届かない高い棚の物を代わりにとってあげるのも、ありがとうと言われるのも。  毎日、たくさんの夢が叶うなんて、二十歳にして一生分の運を使い果たしてしまったのかもしれないと、涼一は半ば本気で思っている。  涼一は榛名に微笑まれるだけで幸せな気分になれるというのに、榛名の方はそうでもないらしい。いつも眉間に皺ばかり寄せている。  パジャマ姿で、歯磨き粉の白い泡を口元にぶくぶくと立たせたまま、榛名は絶望的な顔で鏡を見ていた。 「四十一なんて、初老だな」 「そんなわけないだろ。四十代に入ったばかりじゃないか」  涼一が口をすすいでいる間も、榛名はハブラシを口にくわえたまま自分の顔を右左に振り、しみじみと己の顔に見入っている。 「ジョン・レノンだったらとっくに死んでる齢だぞ」 「誰それ?」  頬を引くつかせてショックを受けている榛名に、涼一は冗談が過ぎたと慌てて訂正する。 「うそうそ、冗談だって」  榛名は常識だと思っているらしいが、同年代で知っている人間は少ないのではないかと思ったことは内緒にしておいた。     
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