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「無知ってのは怖いモンだなぁ、お嬢さん?」
「はあっ!?」
金切り声を撒き散らす女を、振り返りざまの甲斐が冷ややかに見つめる。けして睨んでいる訳ではないのだが、その目は凍てつく程に鋭い光を纏っていた。
勢いをそがれたように、夏南が数歩下がる。
「まぁ、そのうち分かるさ。アンタが喧嘩を売った相手が、どういう奴かってのを、身をもってな」
辰巳の言葉は、脅しでも何でもない。
パーティーなど、夏南は二度と披く事は出来ないだろう。この先、同じ仕事を続けて行くことさえも、出来ないかもしれない。
この先、ほんの僅かでもこの女と関係がある仕事に、甲斐の息がかかった企業が関わる事はないだろう。ただ、それだけでよかった。
業務に支障をきたした時に、どちらを切り捨てるかはその企業の判断だ。
甲斐を取り巻く環境は、甲斐の意思とは関係なく関わった相手に影響を及ぼす。
冗談でもなんでもなく、世の中にはそういう人間が存在するのだ。それを、この女は身をもって知る事になるだろう。
◇ ◆ ◇
全てが真っ白な部屋。そこに、隼人はひとり蹲っていた。窓もないその部屋では、時間の経過も分からない。
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