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ホストは一途に愛を捧げる。
◆ プロローグ ◆
鏡張りの壁。煌びやかな内装。華やかな男達。
取引先の女社長を接待するために上司が選んだ店は、ホストクラブだった。
―――まして、この店とは…。参ったな…。
セルロイドの黒縁眼鏡は、別に視力を補正する為のものではない。その奥で須藤甲斐(すどうかい)は目を眇めると、ふっと小さく息を吐いた。
ホストクラブが嫌いという訳ではないが、自分の所有する店というのは如何なものか。
地味な眼鏡は、顔を隠すというより印象を操作するためのものだった。
会社での甲斐は、訳あって身分を隠している。今現在の姿からは、素の姿など想像も出来ないだろう。この店はもちろん、趣味で所有している店は他にも何店舗かある。
多くのトップモデルが所属する芸能事務所からアパレルブランドまで。早くに引退した父親の跡を、甲斐は継いでいる。
ファッション業界に関連したものならすべて息のかかる会社で事が足りるという企業グループ、SDIカンパニー。そのトップに立つ若き帝王。それが甲斐の本当の顔だった。
とはいえ今は、趣味と実益を兼ねて何の関係もない会社に身分を隠して働いているただのサラリーマンの身ではあるが。
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