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「どうした須藤、早く座らないか」
「あ、はい。すみません……」
巧妙に隠された監視カメラをジッと見つめて立ち尽くす甲斐を、場慣れしていないとでも思っているのだろう上司が呆れたように手招きをしてくる。
だが、勘違いをしてくれるのなら、甲斐にとってそれに越した事はない。
小さく謝った甲斐が席に着くと、すぐさま数人の男たちがテーブルにやってきた。皆一様に派手なスーツを着崩していて、正直見分けがつかない。
男たちに囲まれた女社長はのっけから上機嫌で、上司の思惑通りといったところだろう。酒を作る手間が省けるのは喜ばしい事だが、甲斐にとって居心地が悪い理由はもうひとつ。
それは…。
「失礼します。ご一緒してもよろしいですか?」
―――出たな…。
先の一団より遅れて顔を出した男の相貌は、驚くほど整っている。百八十五センチの長身に纏ったスーツの値段は、平凡なサラリーマンの月給など軽く超える代物だ。
他のホスト達とは一線を画し、きっちりとスーツを身に着けている。
この店のナンバーワン『ハヤト』。
二十歳という年齢の割に落ち着いた雰囲気と柔らかな物腰。ホストであり、有名ブランドのモデルを数多くこなし、王子様だなんだと巷で持て囃されている。
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