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枕営業などもってのほか。同伴、アフターも一切しない。
それでもこの店には『ハヤト』目当てにやってくる客が尽きる事はなかった。
本名、安芸隼人(あきはやと)。甲斐の同居人であり、五歳年下の、一応恋人でもある。 案の定、隼人は甲斐にちらりと視線を向けて、一瞬だけ険しい顔をした。
そんなことなど露知らず、店のナンバーワンがテーブルについたことで増々上機嫌な女社長は、馬鹿みたいにボトルを入れている。
ボトルが入る度に店内にコールが流れ、それはそれは喧しい。
―――どうせならVIPルームでも押さえて欲しいものだ。
内心そう呟いて甲斐は目の前のグラスの中身を飲み干すと、頃合いを見計らって席を立った。
この店に来る前にも食事の後に一軒。すでに結構な量の酒を飲んでいる上司も女社長も、甲斐に気を取られた様子はない。
店内の通路を迷うことなく進んで、甲斐は『staff only』と書かれたドアを開けた。室内には数人の内勤スタッフがいて、突然の侵入者へと一斉に視線が集まる。
「店長はいるか」
眼鏡を外しながらそう問いかけると、内勤のスタッフ全員が立ち上がって姿勢を正す。
「お疲れ様です!」
口々に挨拶をされて、甲斐は苦笑を漏らした。ホスト業界は、案外体育会系だ。
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