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「咲耶、私、再婚することにしたわ」 「・・・・・」 唐突に目の前の女が言った。 「あなたにも引っ越しと転校してもらう事になるからそのつもりでいてちょうだい。次の週末迎えにくるわ」 女は言いたい事だけ言うと部屋から出て行った。 イヤな女・・・あんな女と同じ血が身体の中を流れてると思うと反吐が出る。 再婚?笑わせてくれる・・18才で私を産んで4度の離婚を繰り返し5度目の・・・再婚・・? 正確には再再再再婚だ。 傲慢で身勝手で誰よりも美しい女。 芸名・・御堂麗香、現在35才で世に知られたトップ女優だ。 16才で芸能界にデビューして持ち前の美貌を武器にお約束の営業で今日のトップ女優の座を築いた痴れ者だ。 俳優・・映画監督・・スポンサー・・数々の恋の噂は絶えない。 一応、娘の私の存在は世間に認知されているようだ。 どういう経緯で・・くそつまらないこの世界に私が生を受けることになったのか・・私は知らない・・・知りたくもない。 私の知るあの女の生き方からして知らない方が幸せな気がする。 つまらなくて・・退屈で色の無いこの世界が、まだましに思えるから。 物心付いてから小学校の頃まで私はあの女の実家に預けられてた。 あの女からは想像も出来ないようなお堅い由緒ある家柄で明治以降代々の家長が政治家を勤める名家でも有った。 あの女はその家の一人娘でいずれ家柄に相応しい人物と結婚して家を継ぐことが定められていた。 幼い頃から家柄に相応しい教養や知性を身につけるよう厳格な祖父に依って厳しく躾られた。 元々・・奔放で我儘な素地の有った性格は・・それに我慢出来ず中学卒業と共に家出という形で祖父に意思表示したのだった。 その後は・・世間の知るところの経緯であれよあれよという間にトップ女優の座まで登り詰めてしまった。 手酷く裏切ったも同様の・・その祖父母に私をどういう算段で預けることになったのかわからないが私の幼少時代は散々だった。 女優・・御堂麗香が自分の娘だと世間に知られる事を憚った祖父はその娘である私を幽閉するように育てた。 学校へ行くことは許されず牢獄のような部屋で祖父の選別した家庭教師を付けられた。 自分を裏切った憎い娘の子供であれ、血の繋がった孫に一介の教養、知識を授ける事は名家に生れた性だったのかも知れない。 お陰で厳しいスパルタ教育の元・・後に全寮制の中学に上がった時・・殆ど首席の成績を修めることとなる程だった。
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