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遠くなる理想と現実との間で。
私が今まで感じたことのない店の空気に絶句して立ち尽くしていると、声がかかった。
「おーい、こっちこっち!」
声をかけてきたのは赤髪の男と寸劇を行っていた黒髪の男だった。
「お、来てるな。さ、こっちに行こう」
「う、うん……」
男に促されて座ったのは、私がいつも座っている席とは違う、店の隅っこの席だった。
私はその一番奥のコーナー部分に座らされ、目の前に赤髪の男と黒髪の男が座った。
まるであの太ましい男から覆い隠すかの様に。
「二人で買い物行ってきたんだって? 良いのか? この子声からして女の子っぽいけど、彼女妬かない?」
「ははっ。あいつには買い出しと酒場に行くとしか言ってないよ。あいつはインドア派だし、この子ならフードローブで傍目から性別見分けにくいから大丈夫じゃないんかな?」
黒髪の問いに赤髪の男は苦笑しながら頭を掻いた。
「彼女さん居るんですか?」
私が尋ねると、彼は照れくさそうに「まあね」と答えた。
「コイツの彼女スッゲー嫉妬深かくてさ。俺、ちょっと心配で先に酒場に来てお前ら待ってたんだ」
「だから居たのか。何だか仕組まれたみたいに居たからどうしたのかと思ったぞ」
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