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無事に入る寮も決まった、殊祢は友紀也に連れられ実際にカエルラドラコ寮に足を運んでいた。
「へぇ……、なんかの童話に出て来そうな寮だね」
「うん? ...あぁ、言われてみたらそうかもね」
カエルラドラコ寮の内装は、外装の見た目通り煉瓦の壁で出来ており、談話室と思しき部屋には火の点いていない暖炉が在った。見るだけで、殊祢は暖かい場所だと認識した様だ。時に、人の思い込みとは凄いものである。
暖炉の前の赤茶系の色をしたソファーに真白い毛がふさふさとはみ出ていた。
「ねぇ、お兄さん、彼(アレ)は誰?」
『彼は、食満 友紀也や君と同じ寮に住む、結城 真琴だ』
「ボクは、お兄さんに訊いたんだけどな……」
ソファーの陰に見えた真白い毛と同じ様に真白い天使は、何時の間に来たのか其処に加わっていた。殊祢は、ジトリとした眼で天使を見詰める。
「かなり怠惰性な所が彼の個性だと、俺は思ってるよ」
友紀也は、そう言うと苦笑いしながら頬を掻いた。殊祢は、未だ納得出来ていないのかむすっとしていたが。
「ふわぁぁ……。おはよぉ……、ん、いもてんちゃんもおはよ」
大きな欠伸をして、目許に涙を溜めながら起きた青年、異、真琴は枕を大事に持ちながら目を擦る。そして、天使を認識するや否や、“妹の”と付けて天使を呼び、天使にニコッと笑みかけ天使にハグをした。その後に、天使の『私は、いもてんちゃんじゃない! 天使ちゃんだ!』と言う絶叫。
殊祢も、思わず耳を塞いだ。其れを友紀也は、「いつものことだよ」と殊祢に呟いた。
「お兄さんは、まるで、アリスに出て来る眠りネズミだな」
「ん~? 其れって俺のこと……? あー、うーん。わかんないや……そーまに訊いたら、わかったかもねぇ……」
殊祢は、友紀也の呟きに成程と軽く肯くと、天使を抱き締める真琴をじぃっと見つめ“眠りネズミ”の様だと揶揄した。真琴はほのぼのと首を傾げて、少し考えたようだが首を振って“そーま”と言う名を口にした。その顔は半目で気怠げながらも、やや哀しげな陰りを帯びていた。
そして、真琴は言った。
「ところで……」
「ところで……。食満くんと一緒にいる君は誰だい?」
と、眠たげに。
気を抜けば直ぐに、眠ってしまいそうな声音だった。
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