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「ん?何これ?」
新作の詩を一通り読んだ我が親友の第一声である。
短い上に残酷なコメントに精神を削り取られる。
「これ詩じゃなくてお前の心情をつらづらと綴っただけの作文じゃん」
そういうと彼は原稿をテーブルに置き、とうに冷めたコーヒーを口に運んだ。
「そういうなって木野村、こっちは四日間くらいノイローゼだったんだから」
そう言いながら私は顔を両手で覆った。
事実、これは詩ではなくただの独白だ。リズムや行間はそれっぽくしてても特に比喩表現などの工夫なんざ凝らしちゃいない。
「っていうかもう何ヶ月も別れた彼女に未だに執着してんのかよ...そろそろ切り替えないと」
そう言われながらちらっと指の隙間から相手の表情を伺う。
「あ、お前今鼻で笑ったろ」
「ん?何のことかな?」
そう言って木野村はコーヒーを一気に飲み干す。
「っていうかそいつじゃねえよ。それとこれは全く別の話だわ」
「えー違うの?えーっと何だっけ、杏果ちゃん?」
「違うわ、これは親友だと思ってたやつの話だ」
実際は木野村の言うとおり、杏果のことである。だが彼女との決別はとうの昔に済ませた。一応失恋の痛みを二ヶ月くらい味わい、恋愛という感情における区切りはつけた。
だがその後も良き友として何度か電話をしたり出かけたりしていた。事実一番本音をぶつけ合えた相手であり、他の誰かと双方結婚しても、この関係は続いていくものだと思っていた。
「ふーん、で、その親友とやらと何があったんだよ」
「なあに、単純な話さ」
そうカッコつけて、一通りの出来事を説明する。
ついぞ四日前、いつものように電話でどうでもいい話をし、互いの愚痴話をしていた時のことだ。
何の話をしていたかはあまり覚えていない。ただ彼女はさらりと私の人生を、私の信念を否定したのだった。
『あんた何でもかんでも自分のためっていうけど、本当は人に認めて欲しいんでしょ?私は知らないけど。』
衝撃的だった。ここまで人に踏み込まれたことがなくてただ戸惑っていたのかもしれないが、それ以上にあまりにも心に残った言葉だった。
その時初めて知ったのだった。
ああ、この人はこの先俺が死してなお認めてくれることはないのだと。
そして出会ってから今の今まで、ずっと彼女だけに認めて欲しかったのだと。
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