絶望と愛と希望の三重唱

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「出会って何年だよ」 「七年目?かな」 「何だよやっぱりカルガモじゃねえか」 カルガモとは杏果のあだ名である。木野村は直接知っているわけではないが、三人とも学校が同じだったので、多少面識はあるらしい。 「カルガモって懐かしいな、その呼び方」 「ああ、いつか昔ゲーセンで見かけたカルガモのぬいぐるみが杏果ちゃんそっくりだったんだよな」 「いやありゃやっぱり似てねえよ...っていうか俺ケーキ頼むけどなんかいる?」 そう言ってメニュー表を木野村に渡す。 「ん?あぁ悪いな、じゃあ俺パフェにするわ」 「遠慮がねえな、まああいも変わらずだけど」 ボタンを押し、新人であろう店員さんにゆっくり丁寧に注文をする。 「すみません注文取るの遅くて」 「いえいえ、ごゆっくり」 「ごゆっくりって変だろ」 「そうか?まあエリート大のお前がいうなら間違えねえな」 「あ?なめてんのかお前」 クスクスと笑いながら厨房に戻る店員さんを横目に、本題に戻る。 「まあそんなことはどうでもいいんだよ、エリート野村さん、これやり直したほうがいいかな」 「ああ、いやテーマはいいけど全然詩っぽくねえから」 すると木野村はかばんから取り出したラムネを頬張った。 「っていうか前は何の詩で入賞したんだっけ」 「えー何だったかな...あああれだ、港町のやつ」 以前詩のコンテストで応募した作品は、中原中也の詩の「港町の秋」に感化され作った作品である。 「ああ中也かよ...俺あいつ嫌い、なんか自己中心的だし分かりにくいし」 「ええ、じゃあお前は誰が好きなんだよ」 「俺は断然武者小路実篤だな、ほら、もう名前がかっこいいし」 「うわもうバカが考えそうな理由だな。もっとないのかよ、こう、川端とか太宰とか芥川とか」 そう言って私は口を閉ざした。芥川という言葉で杏果との過去を思い出したのだった。 あれは確か四年前、高校一年生の時だ。不思議なことに私はこの時杏果のことが心底嫌いだった。どれくらい嫌いかというと些細なことで大げんかして教科書の束で頭を殴られたり、学習用ノート10ページ使って復讐の計画を立てるくらいに嫌いだった。 そんな心底憎みつつもある時二人一組になって現代文の発表をしなければならなくなった。そしてあろうことか隣の席のやつと組まなければならなかった。そう、もちろん隣のやつとは杏果である。
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