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居酒屋や食べ物屋さんの看板が並ぶ通りを、三分の二程上り切った所で、彼が急に脇道に曲がった。メイン通りから逸れるようだ。彼は、私が後を付いて来ているかを、一度振り向いて確認すると、再び歩き出した。
小路に入り込むと、急にアダルトショップや、ラブホテルの看板が増える。あぁ、やっぱり私は、間違っていたのかなと、後悔し、すぐに、もういいや、どうなってもと、諦めの感情が湧いて来た。無言で、彼の後を追う。人気は少なく、偶然、ラブホテルの入り口から出て来たカップルと目が合い、気まずい思いをした。女性は20代位だが、男性の方は彼女の父親位の年代に見えた。訳ありなのだと、勝手に妄想する。
飄々と前を歩く彼には、当たり前の日常なのかもしれない。訳ありカップルにじろじろと視線を送る訳でもなく、真っ直ぐ前を向いて歩いている。やがて、彼はあるラブホテルの前で立ち止まった。
「ここだよ」
彼は微笑んで、ホテルの看板を指差した。休憩、宿泊と料金表が壁に掲げられている。10階はあるだろうか、縦に長い、この辺りにしたら大きなビルだ。壁側には屋上へ続く螺旋階段が伸びている。
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