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 叔母さんは、窓から部屋のキーを差し出した。丸々と太った彼女の手が見えた。右手の薬指に嵌ったゴールドの指輪は、取り外しが不可能な位に、肉に埋もれてしまっている。指先には、ワイン色のマニュキュアを施していた。 「急にすみません、お世話になります……」  彼はカードキーを受け取ると、「こっちだよ」と、奥のエレベーターホールを指差した。彼の叔母と面と向かう勇気がなかったので、通り過ぎる時に、会釈をし、呟いた。 「お腹空いているなら、内線でフロントに電話しな。メニュー表は、部屋にあるから。料金は甥っ子のバイト代から引いとくから、好きな物を頼みなさい」  ぶっきらぼうな言い方だったが、叔母さんは私に声を掛けた。意外といい人なのかもしれない。  エレベーターに乗り込むと、少年は最上階である八階のボタンを押した。 「君って、ラブホの一室に住んでいるの?」  つい気になって、訊ねてしまった。 「そうだよ」と、少年は頷いた。 「君の叔母さんもそうなの?」 「叔母さんは、別の所に家があるよ。夜の九時を回ったら、パートのオバサンと交代して、家に帰るよ。ここから歩いて五分くらいの所だけどね」
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