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「いつも制服だよね? 高校生? 学校、サボってるの?」
私は声を出さずに、首を縦に振った。
「今日は、もう六時を回ったけど、帰らないの?」
「……何となく、帰りたくないなと思って」
ポロリと口から本音が零れた。言ってしまった後で、慌てて口元を押えた。こんなことなら、ヘッドホンだけじゃなくて、マスクも持ってくれば良かったと、後悔した。マスクを掛ければ、言葉も笑顔も最小限で済むのだ。ペットボトルを両手で包み込みながら、溜息を吐いた。
「……帰りたくないのかぁ」と、少年は私の言葉を繰り返した。
「帰りたくないなら、オレの家、来る?」
「え?」
予想外の言葉に、ぽかんと口を開けた間抜けな顔で、訊き返した。何、言ってるの、コイツ。眉間に皺を寄せて、訝しる。
「いや、オレの家っていうか、正確には、オレの叔母さんの家? というか職場だけど、ここから歩いて10分位だし。いつまでもここにいたんじゃ、変な人に声掛けられるかもしれないよ」
変な人って君のことじゃないの? と訊き返そうと思ったけれど止めた。初対面の人というか、街で何回か見かけただけの他人を、いきなり自分の家に連れて行こうとするなんて、怪しすぎる。この男の手口かもしれなかった。
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