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「そうだねぇ、普通しないよね。でも、オレは、君がずっと誰かに話掛けられるのを、待っていたような気がしたんだ」
少年はのんびりした口調で答え、私に向かって微笑んだ。
雑踏の中を歩いている。金曜日の夜、街は賑やかだ。煌びやかなネオンサインの下、会社帰りサラリーマン、合コンらしき男女のグループ、ノリのいい大学生のサークルの群団。すれ違う人々は、みんな楽しそうに見えた。
私は少年の背中を追って、緩やかな坂を上っていた。街を代表するファッションビルを横目に、青銅の鐘を被ったような街灯が、通りに沿って連なっているのを眺めながら、歩を進める。上下スウェットで薄着の彼は、両手をズボンのポケットに突っ込みながら、岩場の陰を泳ぐ魚のように、前を歩く人々の隙間を縫って、歩いて行く。
牛丼チェーン店の前を通り過ぎると、甘じょっぱい、つゆの香りが漂った。急に空腹を思い出し、私はブレザーの上からお腹を擦った。Suicaには、帰りの交通費は残してあったが、衝動的に学校をサボったため、財布の中に現金はほぼなかった。まぁ、一日くらい食べなくても、死なないし。むしろダイエットになるしと、頭の中で言い聞かせた。
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