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その空いた時間で航一は新たな役目を増やした。三春のお迎えである。
なにか用事が無い限り〈ホース〉まで毎晩三春を迎えに行っている。仕事終わりの三春は化粧をしているせいかいつもちょっと華やかだ。
(普段のすっぴんも可愛いけど、夜のおんなって感じでこれはこれで色っぽいんだよな)
彼氏がいつも迎えに来ることを同僚にからかわれて、三春は恥ずかしがっていたが、満更でもないようである。航一がたまに〈ホース〉に遊びに行くと照れくさそうな顔をしながらも相手をしてくれる。
三春の親友の澄生が作るフローズン・ダイキリも最近のお気に入りだ。きんと冷えていてけっこう美味い。
初めて作ってもらった時は、三春を神戸旅行に誘うという緊張感で味わうどころではなかった。いま思えば勿体ないことをしたと思う。
あと最初のころ三春の背中を強引に押してくれた、オーナー兼店長の馬場には感謝している。
そのお礼も兼ねて、明日の結婚式に二人を招待していた。お互いの家族と親しい友人だけをまねいたこじんまりとした式。その後に小さなレストランを貸し切って食事会をするつもりだ。
航一はまだにやついている三春の頭をぽこんと叩いた。
「いて」
「まだ寝ないのかよ。十二時過ぎるぞ」
「解ってまあす」
「ところで両親への手紙は書けたのか?」
「んー、まだ」
「おいおい。間に合うのかよ」
披露宴で定番の両親へ感謝の手紙を読むというイベントを三春がどうしてもやりたいと言うので、異例だが式の最後にする予定になっている。
(ほんとに大丈夫かよ)
三春うっとりした顔で言う。
「この前撮りの写真の僕、すっごくきれいだなあ。見て」
とスマートフォンを航一の方に向けた。
画面には、真っ白なウエディングドレスをまとった三春と同じく白いタキシード姿の航一がいた。
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