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「解ったわ。好きにしなさい」
一愛が呟いた。その瞳の縁が僅かに濡れていたような気がした。
「おんなとして哲学を持ちなさいよ」
二美花が目を丸くし、ばつが悪そうな顔をした。
「聞いてたの」
「聞こえたの」
一愛と二美花が顔を見合わせて笑い、安堵と感謝で胸がいっぱいになった。
「そうと決まったら邪魔者は退散しないとね」
と言って、一愛と美花は去った。
残され、航一を見上げると、口の端をぐいと引き上げて三春を見下ろしていた。
「宜しくね、三春」
先程まで暖かかったまなざしが突如歪んだように見えた。陽が移動して逆光になり顔全体にはっとするほど濃い影が出来ていた。
なんだろう。
急に冷たい秋風が吹いて我に返った。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ぶるりと身体を震わせる。地面が冷え冷えとし、足の裏から冷気が這い上がってくるみたいだ。
「出ようか」
航一に続いて両腕をさすりながら席を立った。
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