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地下鉄の入口の前で航一と三春は立ち止まった。下へ続く階段がぽっかりと口を開けている。
「ごめん。さっき急に仕事が入ったんだ。今日はここで別れよう」
航一が言ったので三春は頷いた。
きっとホテルを断ったからだろう、と薄々気づいていた。
「いつ新潟に行く?」
「三春の準備ができ次第。今週末とかどうかな」
「解った。準備する」
じゃあな、と航一が踵を返そうとしたので、三春は咄嗟に呼び止めた。
「航一さん」
「なに」
「僕のこと、好き?」
「当たり前だろう。俺は真面目ではないけど、本気の相手とじゃなきゃ結婚しようなんて言えないよ」
三春は視線を彷徨わせた。
「僕はまだ、航一さんが好きかどうか解らない。さっきの話を聞いたら尚更……」
「はは、そうだね。けど俺は三春の全部が知りたい」
航一が三春を見詰めて言った。その瞳が好奇心に溢れているのがよく解った。
三春は、航一は追われるよりも追いたいタイプだな、とその両目を覗き込みながら思った。
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