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「行こうか」
促されて駐車場へ向かうとシルバーのプリウスが航一の車だった。トランクに荷物を乗せ、三春は助手席に座った。シートに背を預けると微かに煙草の匂いがする。
「二時間半くらいで着くから」
運転席に乗り込み、眼鏡を掛けて航一が答えた。
三春は航一の賢そうな横顔を盗み見ながら頬を熱くしていた。
格好いいな。正直タイプだ。
車を発進させ、しばらく走ると信号に引っかかった。航一が三春を向き、にやっと笑った。膝に乗せた三春の右手を航一が腕を伸ばして掌で包んだ。
「ひゃっ」
急に温かい皮膚で覆われて三春は声を上げた。
「手を繋ぐくらいならいいでしょ」
眼鏡の間から航一が横目で三春を見た。その色っぽい流し目に心臓がとくりと跳ねる。
どうしようか三春は一瞬迷ったが、さっきのナンパしている姿を思い出し、航一の掌から自分の右手を引っこ抜いた。
信号が青になった。
ちぇっ、と航一は唇を尖らせて前を向く。
「三春って結構強情なんだね」
「僕は航一さんみたいに軽い男じゃないもん」
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