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「淳さん、いい加減にしようよ」
トンカツ『こぶた』の一階、小上がりの1番奥の席で、衝立ての隙間からテーブル席を伺う飯場をたしなめる。
「何いってんの、あの岡部くんの彼女になるかも知れないんだよ。ちゃんと品定めしてあげなくちゃ」
吉田は呆れ顔でいたが、実は少し嬉しかった。
飯場はただ事態を面白がっているのではなく、自分から岡部に対する心配を言い出せない吉田のことを気遣かってくれているのだ。
飯場という恋人がいるというのに、岡部に気持ちを向けていることを咎めることもなく…。
「あちゃ~、鈍ちんの岡部くんでもさすがに気まずそうだわ」
飯場は衝立てから一旦はなれて吉田に向き直るとビールを一口飲んだ。
「『こぶた』に揃いも揃ってこぶたちゃんばっかり。でも、1番可愛いのは岡部くんだね」
「淳さん…」
吉田は熊みたいな顔をほころばせた。
飯場は美しい男だ。
ハーフぽい顔立ちだが、遡れる記録に欧米の血はないことになっているらしい。
色素が薄い瞳は黄色っぽい。
甘い顔立ちそのままに寛大で優しくて…。たまに悪戯っ子になる。
「きっと安藤さんか、安村さんと帰るね。良いんじゃない?」
飯場が時々つい立てを覗き込んだりしながら、二人はビールを酌み交わす。
「あっ、遅刻野郎到着。うわっ凄いイケメン♪ 一人勝ちかな?」
飯場の浮かれた声の響きに吉田もつい、衝立ての向こうを見てしまう。
白いTシャツに黒のデニムパンツ。白いシャツが下着に見えないくらい、さりげなくファッションに気を使っているようだ。
いわゆる細マッチョ。筋肉で締まった身体をこぶた達に見せつけたいのなら厭味な奴だ。なんだか気にくわない。
「なんか、光次郎くんにちょっと似てる」
「はぁ?」
丸顔の吉田とは似ても似つかない。
「目つきが鋭いとこ♪」
飯場が茶目っ気たっぷりに言うので、わざと睨みつける。
「いいね、その顔。…ねぇ」
クスッと笑って顔を寄せてくる。
吉田は飯場の意図を悟りながら、わざとおでこにキスをした。
「意地悪」
口を尖らせる飯場の頬に手を添えると、今度は唇にサッと触れた。
飯場は頬を染めて、また衝立ての方を見た。
「岡部くんに恋人が出来れば僕も安心だ」
珍しく本音が出た。
「大丈夫だよ。岡部くんに恋人ができなくても俺の1番はずっと淳さんだから」
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