覗き魔【其の二】

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「あっ、あのっ、小玉くん…」  こぶたはズボンをたくしあげようとしながら、後を追いかけようとしてバランスを崩し、そのまま泣き崩れた。  こぶたは、岡部だった。 「おかっ」  飯場は思わず声をあげた。  吉田が逃げたイケメンを追いかけようとするのを飯場は止める。 「岡部くんのケアをしなくちゃ」  茫然と座り込んだ岡部にそっと近づくと最初は驚愕して、身を引いたがすぐに吉田の胸にすがって泣いた。 「訴えるなら証拠、とっておかなくちゃならないから…病院に行こうか?」  飯場はそっと岡部の肩に触れた。 「病院? 訴える?」  目を真っ赤にした岡部が飯場を振り返って、しばし見上げてから首を横に振った。 「そんな…僕、そんなこと…絶対嫌」  震える高い声を絞りだして、ぐずぐずと泣き出す。  飯場はトイレに誘う。  個室に入れて身体の処理を教えた。 「アイツ、誰なんだよ!」  吉田はかなり怒っていた。イケメンの名前と連絡先を聞き出そうとする。  怖ず怖ずと個室から出てきた岡部は知らないと言った。 「初対面だし…」 「初対面で連絡先も知らないヤツとなにがあったんだよ? やられたんだろ?」  岡部は涙を浮かべ、否定も肯定もしなかった。 「連絡先はすぐに調べろ。明日、ちゃんと聞いたかお前の携帯チェックするからな」  主催者に聞けばわかるだろうと吉田があまり強くいうので根負けして、連絡先を友人に聞くことを約束したのが、公に訴えなくても慰謝料を請求しろというのには頑として首を縦に振らなかった。 「このことは二人とも忘れてよ。僕は、二度と話したくない。慰謝料なんて要らない」  公園を出る頃に最終バスはもうなかった。  吉田はタクシーを拾って、岡部を家に送って行った。 「岡部くん…、合意だったんだよね?」  タクシーを見送りながら飯場は呟いた。  吉田の怒りに聞きそびれてしまったが、明日電話してちゃんと確認しようと決めた。
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