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八畳の座敷に御膳が二つ。障子に向かって並べてあり、ビールと唐揚げがのっている。
吉田と飯場は並んで、ほとんど会話もなく、ただビールを酌み交わし、隣の座敷と隔てる障子に意識を向けていた。
御膳の上で、笑い声が立つ。
そこにはデジタルプレイヤーが置かれている。
飯場が誰かの宴会を延々と録音していたモノらしい。
さもこちらの部屋でも宴会が行われているかのように、流しているのだ。
隣に岡部たちがやってきた気配がして、飯場が隣へ身を傾けたのを、吉田が引き止める。
飯場はそれを振り払い、目をキラキラさせて膝で襖までにじりより、耳を近付けた。
吉田は肩をすくめ、苦笑いしてその隣に膝を進めた。
今日は実家に兄が婚約者を連れて来ていて、ここにはいないつもりだったのだが、結局、岡部が心配で来てしまっていた。
岡部はいまだに彼女が欲しいと言っていて、吉田はとても複雑な気分だった。
先輩二人に頼まれ、無駄にイケメンの小玉を引き出し、岡部に気がある三崎のために合コンの手筈を整えたのは吉田だったが、小玉にも岡部にも彼女が出来て欲しくはない。
小玉に彼女が出来れば岡部が悲しまないはずがない。
岡部は同期だが、4つ年下の弟分で、からかいがいのある可愛らしさが、吉田のS心をくすぐる。
良く言えば母性本能をくすぐられる性格で、職場でもその可愛らしさからマスコット扱いされているが、天然でそそっかしいところが危うい。
失敗をしては虐め体質の人から必要以上に咎めだてられてしまうことも度々だ。
同期のよしみで吉田は岡部の慰め役になっていたが、弟分以上に思ってもいる。もし飯場の存在がなければ、小玉に手出しなどさせなかっただろう。
飯場は吉田が岡部を大事に思っていることを認めている。吉田に岡部を口説くようにけしかけてきたこともあった。
吉田はそれを笑い飛ばした。ノンケのはずだった岡部を口説く苦労も責任も嫌だったし、二人を平等に愛せる自信もない。
岡部に対しては見守る立場で良いと思っている。
飯場は吉田の気持ちを大事にしてくれていて、岡部のことを気にかけてくれる。
しかし、悪戯好きの飯場が何かするかもと不安にもなる。
「淳さん、悪趣味…」
襖を薄く開けようとする飯場の手を抑え、耳に囁いた。
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