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隣の宴会場から笑い声が聞こえ、岡部の聞き慣れた声、男にしては高めの声が恥ずかしそうに「もうやめて下さい」と言うのが聞こえた。
吉田は飯場の手を引いて、御膳の前の座布団に座らせた。
「幸次郎くんも心配でしょ?」
囁き声で言いながら首を傾げ、少し不満げに唇を尖らせる。
普段は大人っぽいのにこういう時は悪戯っ子のようだ。
「覗き見するのは別の話」
抱き寄せてなだめるように頭を撫でた。
飯場は素直に吉田の肩にもたれて、それでも襖の方に意識を向けていた。
「岡部くんが泣いてないか気にならない?」
「大丈夫。褒められてる」
酔っ払いの声はよく聞こえる。
「岡部くんの作る人形、プロ級だよね…」
ぼんやりとした声に飯場の顔を覗き込む。
穏やかな顔は薄く微笑んで見える。口角の上がった唇のせいだ。
でも本当は嫉妬の感情を抑えているのだろう。
「淳さんのだって凄いよ」
「僕はあんな可愛いの作れない」
ぶすっとする。
吉田はくすりと笑って飯場を両腕で抱きしめた。
「穂積先輩、それは言わないで下さい!!」
岡部が珍しく強い口調で言うのが聞こえて二人は顔を見合わせ、再び襖ににじり寄った。
「写真部の文句たれ君・吉本がブー、剣道部の汗かき君・古川がフー、で美術部の困った君・岡部がウー」
「もう僕の話は終わりにして皆さんのこと聞かせて下さいよぅ」
「まぁ。こないだの3人?」
飯場は目を丸くした。
「うううっ」っと岡部の呻きが聴こえた。
「ほら、それだからウー君って言われちゃうのよ」
弾けるようにどっと笑いがおきる。
吉田は怒りで震えた。小玉も笑っているのが許せない。
「あのハゲ、ぶっ殺す」
思わず襖を開けようとして、飯場が身体で遮った。
「幸次郎くん、また小玉くんを虐めるつもり?」
飯場の顔が強張り妖しい笑みを浮かべていた。
「小玉くんを無理矢理引っ張り出したのは君でしょう?」
そういってから唇を寄せてくる。
「君が虐めて良いのは…僕だけ…」
「淳さん、ここじゃダメだよ」
唇の触れそうな位置で囁き合い、唇から逃れようとして押し倒された。
襖を隔てたすぐそこに友人・同僚がいる。
背徳感に止めなければと思うのに、身体は素直だ。
飯場に翻弄されるままに、吉田は声を堪えながらたぎる思いを放出させたのだった。
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