双晶の国

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 フォスへのお手本を見せるはずが見事なくらいにばらばらに砕かれてしまったボクたちには少しだけ喜びがあった。 「これでまたルチルに直してもらえる」 「組み上げてもらえる」  ボクは三三に頷く。  ボクは八四に頷き返す。  ルチルの手は素晴らしい。ひとつとして同じ部品に割れることのないボクたちをひとつのピースも間違えることなく完璧に組み上げてくれる。ボクたちアメジストの相晶、八四と三三を一欠片も混ぜることなく。 「それで、やはりアレをご所望ですか」 「うん。ルチル、頼むね」 「お願い」  仕方ありませんねだの先生には秘密ですだのといいながら、ルチルは七割方組み上がり目覚めたボクらの願いを聞いてくれる。残りの三割も部品としてはほぼ組み上がっていてあとは本体に繋ぐばかりだったりする。フォスは彼を「ヤブ」なんていうけれどルチルの技は素晴らしいし機微にも通じている。 「医は忍術」 「医は幻術」  ちょっと間違っていただろうかと首を傾げたところでボクらの互いの頭がぶつかりカツンと鳴る。 「いくらあなたたちでもくっつきらないうちにそれをやるとまた開きます」 「「大丈夫」」  ボクたちのルチルへの信頼は微塵の揺らぎもなく完璧なユニゾンが響く。  では繋ぎます、と膠と称するインクルージョンたちへの栄養剤が傷口に塗られる冷たい感触にぞくりとする。継がれるのはボクらの――対の足だ。八四には三三の足が、三三には八四の足が。  双晶と呼ばれるボクらでも呼び名が異なるようにまったく同じ存在ではない。二人でひとつではあっても二体で一人ではないのだ。だからボクらは互いのインクルージョンを交換する。フォスはボクらが砕かれ月に連れ去られそうになったことを気に病んでいるようだったけれどこの交換の機会を生んでくれた彼にボクらは感謝していたりもする。  ――内緒だけど。  ――内緒だけどね。  継がれた足から流れ込むものがあるからだろうか、束の間思考が分裂し二重になったようにも思えたけれどそれはたぶん錯覚で、三三の足は/八四の足は一瞬で違和感のないボク/ボクらの一部になり、ボクらを陶酔させる。
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