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ボクらの互いの違いは小さく、日々を共に過ごすこともあって内に宿すインクルージョンも記憶もほとんど違いはないはずではあったけれど、完全に同一ではないボクらが積み上げる経験は長い年月を経て大きなものに育っている。
その違いが。
互いの六分の一ほどを交換することで。
埋められていく。
八四から/三三から与えられるこの違和感はなんて甘やかで心地良いのだろう。三三が/八四が秘めていたはずのものが結晶の内側でボク自身のものとなって小さな花を咲かせていく。
――ああ、こんな秘密を抱えていたんだね。
――ああ、こんな素敵を隠していたんだね。
頭同士を向き合わせるように横たわったボクらは互いの頬を触れ合わせながら密やかな息を吐く。頬から全身へと広がる水晶の響きが固有振動だけを残響に消えていく。ボクらの秘密。唯一知るルチルは何か言いたげではあったけれど言葉にすることはない。きっと彼は他の宝石たちの秘密も同じように預かる身なのだろう。それがボクらに伝えられたことはなく、だからボクらは共有する秘密の――一部をこうして彼に委ねられもする。
「ルチル、ルチル」
「ねえ、ルチル」
接合の施術を済ませた彼が白粉を取りに離れようとするところにボクらは声をかける。
「いつもみたいに」
「これまでみたいに」
「ああ。そうですね。あなたたちは白粉は後回しでしたっけ」
服の代わりに、とルチルが布を被せてくれる。
「じゃ、部屋で休むよ」
「くらげ借りてくね」
ボクらは互いに腕を組んで起き上がり、ルチルに手を振って部屋に戻る。
「新しい石もよく馴染むね」
「フォスみたいに稀少な素材でないのは幸運」
ぽて、とベッドの両側からボクらは背中合わせに腰を下ろす。直接触れ合えば割れてしまう仲間たちと違ってボクらの寝床はひとつだ。双晶だけの特権だった。
「三三の足もよく馴染んでる」
「八四の足も」
取り替えた足に触れてみたもののすでに身体の他の部位との違いはわからなかった。
「……ね」
「うん」
声にしてみた言葉は響きが消えないうちにどちらが発したものか、応じたものかもわからなくなる。それでもまったく問題はなかった。ボクらは双晶・アメジストだ。
ゆっくり唇と唇を触れ合わせてみる。
続きは文学フリマ東京25のエ-38にて頒布予定です。
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