act.Valentine

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 都会の喧騒とは窓を一枚隔てた静かな室内。大きな窓から見下ろす景色は、すでに夜景に彩られている。  堅牢なデスクの上に広げたノートパソコンのキーを立て続けに叩く音だけが響いていた室内にノックの音が聞こえて、篠宮啓悟(しのみやけいご)は動かしていた指を止めた。  すでに秘書の多田は帰している。それなのにこの部屋のドアを叩く者がいるという事に不信感を覚え、それは声音に変換された。 「誰だ?」  訝し気な問いに答えるかのようにゆっくりと開かれたドアの向こうに立っていたのは、藤堂学(とうどうまなぶ)であった。 「藤堂?」  意外な来訪者に驚きつつも、思わず啓悟の声音が跳ねる。 「マンションに行ったら留守だったのでな、会社かと思って。まだ仕事してるのか」 「んー、ちょっと片付けておきたい案件が…」  来訪者の正体がわかって安心したのか、啓悟は再び指を動かし始める。 「せっかく会いに来てやったのに、随分素っ気ないじゃないか」  言葉の割に拗ねた様子もなく言いながら、藤堂はデスクを回り込んで啓悟の肩に腕を回す。 「ちょっと…打ちにくいって…」 「クリスマスに放っておいたら拗ねる癖に、今日は何ともないのか?」  そう、藤堂に耳元で囁かれ、啓悟はふとデスクの上のカレンダーに目をやった。  二月十四日。バレンタインデーである。 「あ……」  そういえば、女子社員からチョコレートが届いていると、昼間多田が言っていたような気もする。 「忘れてたのか?」 「あー…、うん…」  バレンタインとは、あくまでも女子がチョコレートを贈る日であって、男子である啓悟には覚えておく必要など全くないものだ。 「チョコ…欲しかった?」  忘れていたことに罪悪感を感じたのか、肘掛けに腰掛ける藤堂の顔を見上げながら問いかける啓悟の表情は曇っている。 「いや?」 「ごめん…」 「代わりに、お前を食うから問題ない」  言葉通り、ぺろりと耳を舐め上げられて啓悟の肩が小さく跳ねる。 「っ…ん」 「仕事、続けてていいぞ?」 「……バカ…」  どうせ気が散って進むはずもないと、諦めた啓悟は藤堂の腰にしがみ付いた。  嗅ぎ慣れたコロンと煙草の混じった藤堂の匂いを吸い込む。ただそれだけの事で、啓悟は身体が熱くなるのを自覚した。  藤堂は断りもなく前にあったノートパソコンを横に退けると、代わりに啓悟の身体をデスクに追い詰めた。  そのまま上着を脱がされ、ネクタイを解かれてしまう。  あっという間に露わにされた上半身をデスクに縫い付けられ、見下ろされる。 「…っ、藤堂…」  求める様に名を呼びながら、藤堂の上着のボタンを外していく。ボタンが外れたところで、藤堂は自ら上着を脱ぎ捨てると、ネクタイに指をかけた。  その仕草だけで、啓悟の下肢に熱が帯びるのを自覚した。デスクに阻まれて逃げ場のないまま、下肢を太腿で押し上げられて、啓悟の口から吐息が漏れる。 「は…っ、ぁ」 「触ってもいないのに気持ちよくなってるのか?」  強請るように藤堂の首にしがみ付くと、噛みつくような口付けが降ってきた。 「んっ、…っふ、…ぁ…」  含みきれなかった唾液が口の端から零れ落ちて、胸の突起を濡らす。その刺激だけで、啓悟は身体を小さく震わせる。 「くくっ、敏感すぎると大変だな?」 「っあ、…ぅ、ひぅ…っ」  存在を主張するように立ち上がった小さな突起を摘み上げられて、啓悟の口から悲鳴にも似た声が上がった。痛いほど引き上げられて思わず胸を仰け反らせると、首筋を噛まれた。 「ふぅ…っ、あっ、ぁあ…っ」  藤堂は啓悟のベルトを片手で器用に外すと、そのままスラックスを床に落とした。 「窮屈そうだなぁ、啓悟」 「んく…っ、ぅ、あ、っあ」  張り詰めた屹立をボクサーパンツの上からするりと撫でられて、全身に痺れが走った。  与えられる快感に後ろ手に突いた啓悟の腕がぶるぶると震え、堪えきれずにがくりと折れた。そのままデスクに倒れ込みそうになる啓悟の頭を、藤堂はすんでのところで掬い上げる。  そのまま啓悟の身体をデスクの上に持ち上げると、下着を脱がせてしまう。むき出しにされ、外気に触れた啓悟の下肢がふるりと震え、先端から透明な蜜を垂らした。  すでに思考の溶け切った啓悟が、とろりとした目で見つめていると、藤堂が口の端を持ち上げた。嫌な予感が背筋を這いあがり、啓悟が身じろぐ。  だが、そんな啓悟の腕を藤堂はひとまとめに頭上に縫い付けると、そのままネクタイで縛り上げた。 「な…に…」 「せっかくだから楽しもうと思ってな」  上機嫌で藤堂はそう言うと、啓悟の腕をデスクに備え付けられたスタンドへと固定してしまった。  動けなくなった啓悟を見下ろし、藤堂が身体を起こす。  急に離れていく熱に啓悟は心細さを覚えるが、藤堂はそのままデスクを離れた。 「な…、藤堂…っ」 「すぐに戻る。それまでいい子で待ってろ」  すたすたと部屋を横切った藤堂は、そのままドアを開けて出て行ってしまった。  一糸まとわぬ姿で、しかも拘束されたまま放置され、啓悟は自分の置かれた状況に羞恥を覚える。  ―――こんな恰好させたまま居なくなるとか、何考えてんだよ馬鹿!!  啓悟が内心で罵っているのを知ってか知らずか、藤堂はほどなく戻ってきた。 「お前、こんな恰好のまま置いてくなよ…っ」  あられもない恰好で不満を口にする事の滑稽さは自覚しているけれど、啓悟は言わずにはいられなかった。  そんな啓悟の横で藤堂が何やらガサガサと音をさせていることに気付いて、首を捻る。 「何してんだよ…」  腕を拘束されていて藤堂が何をしているのか見えない。 「せっかくのバレンタインだし、チョコレートでも食わせてやろうと思ってな」 「はぁ?」  急に何を言い出すのかと呆れる啓悟だが、藤堂に身体をひっくり返されて、尻を高く上げるような態勢をとらされる。 「ちょ…ま、さかお前…っ」 「ここに…な?」 「っ…!! なっ、馬鹿…っ、やめっ、んっ」  つぷりと、後ろの蕾に小さな固体を埋め込まれ、一瞬でそれがチョコレートであるという事を悟った。 「この…、変…態…っ」 「お前のここは、いくつ飲み込めるんだろうなぁ」  啓悟の罵倒を気にした様子もなく、藤堂が歌うように呟く。  さほど大きくないのだろう、チョコレートが何の抵抗もなく啓悟の体内に押し込まれていく。 「やだ…っ、も、入れんな…」  腕を固定されて不自由なまま、啓悟が身を捩る。  いつの間にかチョコレートだけでなく指を飲み込まされ、裡を掻き回される。  やがて、体内の熱で溶けたチョコレートが秘部からとろりと滴り落ち、太腿を伝うと、藤堂はそれを指先で掬い上げて啓悟に見せつける様に口に含んだ。 「ぅ…ぁ、も…、やぁだ…ぁ」 「甘い」 「ばかぁ…っ、変態…っ」  快感と羞恥がごちゃ混ぜになって、啓悟の思考も溶けていく。  藤堂の指が秘部を抉る度に、ぐちゅりと粘着質な音が響いて、溶けたチョコレートがデスクの上に落ちた。 「ぁ…はっ、……もぅ…っ、挿れ…て…」  指だけじゃもの足りなくて、啓悟が腰を揺らす。  そんな啓悟の様子に藤堂は満足そうな笑みを浮かべると、スタンドに固定していたネクタイを解いて啓悟の身体を抱き上げた。  窓に手をつかせて啓悟を立たせると、片足を持ち上げて強引に後ろから欲望をねじ込む。 「ひッ、ア、あぁ―――ッ」  前触れもなく一気に最奥まで抉られて、悲鳴にも似た嬌声が啓悟の口をつく。  溶けたチョコレートが卑猥な音を立てて溢れ、啓悟の太腿を濡らした。 「はっ、あッ、あっ、ぁ、んっ」  内壁を突き上げられるたびに啓悟の口から甘い声が漏れ、息が窓を曇らせる。  ともすれば誰かに見られかねないということに今更ながらに気付いたところで、既に啓悟の理性は働かなかった。 「ふぁ…っ、あっ、と…どぉ…、きも…ち…ぃ…いっ」  ひんやりとしたガラスに額を押し付けたまま、啓悟が啜り鳴く。  触れる事すらせずに後ろの刺激だけで達してもなお、萎えることを知らない屹立が幾度めかの白濁を吐き出すのと同時に、藤堂もまた啓悟の中に欲望を注ぎ込んだ。  ずるりと肉筒から欲望を抜き出して、藤堂は半ば意識を失ったままの啓悟の身体をデスクの上に横たえた。  ふと、デスク周りの惨状を見て、藤堂が自嘲気味に笑った。  ―――これは、怒られるだろうな…。  この部屋の主が意識を取り戻した時のことを思い浮かべて苦笑が漏れる。  が、それはまた幾分か先の話。 END
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