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第1章 トナカイの悩み
街はずれの書店でさがしていた短編集をやっと見つけ、お会計をしようとレジに向かうと、トナカイが包装の練習をしていた。
二本足で器用に立っているトナカイのツノにはサンタクロースがかぶる白のぼんぼんがついた赤い毛糸の帽子がちょこんとひっかけられている。
帽子の真ん中くらいの位置には、merryXmas!、という文字の金色の刺繍がされていた。
クリスマス用の袋に本を入れ、口を閉じ、後ろ側をクリスマスシールを使って貼り付け、そのあとリボンをかける。
人間がやるなら大したことはない作業なのだろうけど、トナカイがやるとなると大変だ。
でも、トナカイは器用に前足を使って、それでも一生懸命、クリスマスプレゼント用の包装を練習している。シールを貼るのも、リボンをかけるのも一苦労のようだ。
あまりにも包装の練習に集中しすぎて、トナカイは僕がレジの前に立っているのに気がつかなかったみたいだ。
「あのー、すいません。」
僕はトナカイに話しかけた。
「あ、気がつかなくてすいません。」
トナカイが申し訳なさそうに頭を下げる。
ゴチン。。鈍い音が聞こえた。
頭を下げたトナカイのツノがレジ台に当たってしまったのだ。
いたたた、、、
「あの、、大丈夫ですか?」
「あ、心配しないでください。いつものことですから。」
二本足で立って、しかも、人間の言葉を話すトナカイに出会えるなんてそうそうあることではない。
他にお客さんもいないようだし、僕は少し、トナカイと話をすることにした。
「トナカイさんが本屋さんで働いているなんて珍しいですね。」
トナカイは少し寂しそうな顔をした。
「今年はお呼びがかからなかったんです。」
「誰にですか?」
「もちろん、サンタクロースからです。」
トナカイの話によれば、年々、サンタクロースにクリスマスプレゼントを願う子供の数は減少しており、サンタクロースの数もそれに比例して減る一方らしい。
「サンタクロースが減れば、もちろん、トナカイの需要もなくなります。当然ながら。」
トナカイは俯きかげんに深いため息をつきながらこう言った。
「寂しい世の中になりましたね。」
僕も思わずため息をつく。
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