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第2章 スペードの3
社員通用口の前に遊歩道が通っている。
左右に植え込みがあり、中央の位置に街灯が均等に設置されている。
僕は今日もこの遊歩道を俯いて歩いていた。
すると、左側の植え込みにトランプが一枚落ちていた。
白地に赤い幾何学模様。絵柄は伏せられていたが、デザインといい大きさといい、一目見ればトランプって分かるものだった。
どうしてこんなところにトランプが。。
不思議に思いつつ、その場を通り過ぎた。
すると、後ろから声が聞こえた。
「おい、めくらないのかよ。」
「は??」
空耳なのか?
一瞬立ち止まったが、また歩き出そうとすると、またしても声が聞こえる。
「いいから、めくってみろよ。」
誰かに肩を掴まれたように僕は動けなくなった。
仕方ないので、後ろを振り返り、トランプが落ちている植え込みに向かってしゃがみこむ。
幸い、僕の他に人はいない。
落ちてるトランプをめくるなんて恥ずかしくてとてもできない。
僕は伏せられたトランプをめくってみた。
絵柄は、スペードの3、だった。
よりによって、53種類ある絵柄の中でも最も弱い絵柄じゃないか。
フザケンナ!
スペードって言えばだいたいが不幸のマークだ。
ほら、昔、テレビでやってたクイズ番組もそうだった。
クイズハイアンドロー。。。
「おまっとさんでございましたー!」
満面の笑みを浮かべた愛川欽也が現れる。
そして、いかにも残念そうなBGMが流れ、急に生真面目な表情になった愛川欽也がこう言う。
「突然ですが、、、
あなたのミスで会社に多額の損失を与えてしまいました。
二階級の降格です。ざんねーん。」
。。。。。
3だって最弱だ。
子供のころよくトランプで遊んでいた「貧民」だって、3が一番弱かったじゃないか。
僕は姿なき声に向かって叫んだ。
フザケンナ、コノヤロウ!
「スペードが不幸のマークだって誰が決めた?」
声はそう言った。
「え?」
「だから、スペードが不幸の印だって、誰が決めたんだって聞いてんだよ。何だ、愛川欽也が決めたのか?
じゃあ何か?スペード以外だったら良かったのか?ダイヤ、ハート、クラブ。えっ?どうなんだ?」
「、、、、」
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