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前世歴
時は西暦30xx年。自分の前世がどんなモノだったのかが正確に分かる時代。この時代に生きる者達の評価基準は容姿・性格・学歴。そして、『前世歴』。
ここで言う『前世』とは、ひとつ前の『人間だった自分』のことだ。輪廻転生によりヒトが木々や昆虫、魚などに生まれ変わるとされていた時代など、今は昔。過度な人口爆発を経た今日の地球では、ヒトからヒトへの転生は稀ではなくなっていた。ただ平凡に生きる人々の一挙一動すら、未来の、つまり来世の自分自身の評価に繋がってしまうということだ。
そう。だから俺は選ばなくてはならない。ここで信号無視をして時間ギリギリに到着するか、交通ルールをきちんと守って、やっとの思いで掴んだ面接に遅刻してしまうかどうかを。
「なんでこんな大事な日に寝坊なんてベタなことするかな俺は……!」
左腕に着けた時計を睨みながら喉の奥で悪態をついた。そこでハッとして口を押さえる。今の文句、誰にも聞かれてないよな?
ただでさえ冴えない前世の俺が今世でさらに徳を落として来世でも苦労するなんてなってしまったら、来世の俺に申し訳ないことこの上ない。
「前世診断の結果が出たぞ。出席番号順に配るから呼ばれたら取りに来い。一番、赤間善太。」
高校生の時、大学受験のためにほとんどの生徒が前世診断を受ける。素晴らしい来世の為に大学に行くことは必須だったため、俺も例外なく診断を受けた。だが、その内容には何の感想も抱けなかった。強いて言うなら少しの落胆。
『赤間善太さんの前世【ランクD】可もなく不可もなく、いたって平凡。ただし、どちらかと言えば運動不足だったため、健康面でマイナス評価。』
総評はそんな感じだった。あとは前世の俺の日頃の細かい行いや成績、表彰や主だった人助け、性格などがA3の2つ折りのプリントにまとめられている。
たいした前世じゃない俺は、案の定たいした大学には入れず、たいした実績も残せないまま、たいした事ない就活生となった。
(続く)
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