276人が本棚に入れています
本棚に追加
/306ページ
本当は隼人がそばにいて励ましてくれることが、一番の薬になるのだろうが、今はかなわない。
「どうぞ眼をつむってお楽になさってくださいませ」
少しでも藤音の辛さが和らぐように、桜花は自分も眼を閉じて意識を集中させた。
二人を柔らかな金色の光が包み、重ねた手から桜花の持つ清らかな「気」が流れこむ。
藤音はほうっと息をついた。
何と暖かくて心地よいのだろう。
「……あの時は、ごめんなさいね」
ぽつりと告げる藤音に、手を重ねたまま、桜花は眼を開けて小首をかしげた。
「伊織どのが報告に城に帰ってきた日よ。わたくしはあなたたちに扇を投げつけてしまったわ。伊織どのはあんなにひどい怪我を負っていたのに」
もたらされた知らせはあまりに残酷で、どうしてよいか、混乱するばかりで。
最初のコメントを投稿しよう!