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追い風に恵まれ、真砂までの海路は順調だった。予定より早く船は夕刻には港に到着した。
「おお、隼人どの、よくおいでになられた」
船着き場には水軍の当主である曽我兼光が自ら迎えに出ていた。隼人が船から降りて来ると、親しみをこめて両手を握ってくる。
長年、海に生きてきた者の節くれだった手を、隼人は力強く握り返した。
「この度はお力添えをいただき、誠にありがとうございます。将兵を代表して心からお礼を申しあげます」
「なんの、行く先は同じ場所。ついでのようなものです」
輸送船からは次々と人と荷が降ろされていく。今夜のうちに兵と荷は各々の軍船に振り分けられ、明朝には羅紗へ向けて出港する。
人々が慌ただしく行きかう港の光景に、隼人は感慨深く視線を向けた。
よもや、このような日が来ようとは。
小さな領地での、ささやかな暮らし。隣国の白河との争いも終わり、もう戦など無縁だと信じていた。
だが、止められぬ奔流の中、軋みながら歯車は回り始めていた。
羅紗へ。
まだ見ぬ異国へと。
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