第四章 出陣

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 追い風に恵まれ、真砂までの海路は順調だった。予定より早く船は夕刻には港に到着した。 「おお、隼人どの、よくおいでになられた」  船着き場には水軍の当主である曽我(そが)兼光(かねみつ)が自ら迎えに出ていた。隼人が船から降りて来ると、親しみをこめて両手を握ってくる。  長年、海に生きてきた者の節くれだった手を、隼人は力強く握り返した。 「この度はお力添えをいただき、誠にありがとうございます。将兵を代表して心からお礼を申しあげます」 「なんの、行く先は同じ場所。ついでのようなものです」  輸送船からは次々と人と荷が降ろされていく。今夜のうちに兵と荷は各々の軍船に振り分けられ、明朝には羅紗へ向けて出港する。  人々が慌ただしく行きかう港の光景に、隼人は感慨深く視線を向けた。  よもや、このような日が来ようとは。  小さな領地での、ささやかな暮らし。隣国の白河との争いも終わり、もう戦など無縁だと信じていた。  だが、止められぬ奔流の中、(きし)みながら歯車は回り始めていた。  羅紗へ。  まだ見ぬ異国へと。
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