第六章 王都

2/39
276人が本棚に入れています
本棚に追加
/306ページ
 阿梨(あり)……海に生きる強い意志を持った王女の名が、絶望の淵にいた王の心を揺り動かした。  今となってはあの娘だけが残された唯一の希望だった。  まだ死ぬわけにはいかぬ。理不尽に異国に蹂躙されたこの国の行く末を見届けなくては。王は北の辺境の地へ落ちのびる決断をした。  王都を守備する兵たちとの戦闘は短時間だったが激しかった。都を守っていた門は破壊され、無残な姿をさらしていた。  半ば瓦礫と化した門をくぐり、隼人は馬上から小高い丘の上に建つ王宮を見上げた。 「おお、あれが羅紗の王宮か」 「何と優美な……」  初めて眼にする異国の城に、九条軍の面々からほうっと感嘆のため息が洩れる。  王宮の建物はほとんど無傷で残っていた。  瑠璃瓦が陽光を受けて輝き、南側を河に面した建物の回廊には大理石の列柱が規則正しく並んでいる。  防御を優先させた武骨な倭国の城とはまるで違う。
/306ページ

最初のコメントを投稿しよう!