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ぽかんと口を開けていた隼人は、数秒たってからやっと、ぱん、と手を叩いた。
「ああ、そういうことか!」
「やっとわかってくださいましたのね」
藤音がいささか疲れた声を出す。
「それはめでたい。そういう理由なら、むろん引き止めはしませんよ。で、祝言はいつ?」
「お気が早すぎます、殿」
身を乗り出す隼人に答えたのは伊織である。
続いて桜花が、
「辞する前に後任の者を決めねばなりません。祖父とも相談して、九条家にお仕えするのにふさわしい神官か巫女を探さなくては」
そこで一度、言葉を切り、桜花は再び頭を下げた。辞する前にどうしても伝えておきたい想いがある。
「たとえ巫女の座を降りましても、わたくしは天宮の娘。家系に伝わる力を継いだ者として、九条家をお護りするべく、生涯、夫と共に力をつくす所存にございます」
桜花の真摯な口調に、隣に座っていた伊織も改めて深く頭を下げた。
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